浦和地方裁判所 昭和60年(ワ)651号 判決 1985年12月25日
原告
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
大崎康博
三木祥史
被告
乙野次郎
右訴訟代理人弁護士
森壽男
主文
一 被告は原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年六月一五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
理由
一<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができる。
1 原告(昭和九年一月三日生)は高校の教科書、大学関係のテキスト等を発行している○○出版株式会社に勤務し、総務部長の職にあるものであり、昭和三九年七月三日妻春子(昭和一八年二月二六日生)と婚姻し、長女秋子(昭和四〇年七月一日生)と長男一郎(昭和四三年四月二日生)を儲け、長女は短大二年生、長男は高校二年生で、本件が発生するまでは平穏な家庭生活を営んでいた。一方、被告(昭和三年一〇月一六日生)にも妻子があるが、長男は三一歳、長女は二八歳で、いずれも別世帯をもつている。しかして、被告は中古自動車販売を目的とする有限会社を経営し、従業員四人を使い、年商約三億円を挙げているものである(但し、原告が会社に勤め、春子と夫婦であること、秋子、一郎が原告の家族であること、被告が妻子を有し、中古車販売の有限会社を営んでいることは当事者間に争いがない。)。
2 ところで、被告と春子は昭和五八年一月頃ともに町内の自治会役員であつたことから知り合いになり、同年三月下旬から情交関係をもち、昭和五八年八月頃には被告と春子の間柄が噂になつたことから、原告は春子に対し、被告との交際について十分注意するように戒めた。しかるに、右両名は情交関係を続け、春子は昭和五九年六月下旬頃身の回わりの荷物をまとめて被告の賃借した浦和市下大久保のマンションに移り、被告と約一〇日間同棲するに至つたが、同年七月二日春子は実母の説得により原告のもとへ戻つた。ところが、被告はその後も春子との情交関係を続けた結果、春子は被告の子を懐妊した。
3 その挙句に、被告は昭和五九年一二月一日突然原告宅に来て、原告に対し、被告と春子との結婚を認めてほしいと述べた。原告は春子の親族とも協議し、翌二日に被告と会つて春子と被告の関係について話をすることにし、被告もその旨を了承した。しかるに、被告は翌二日に春子とともに四国へ旅行に出てしまつた。そして、春子は旅先で堕胎し、再び二週間程して同年同月一八日原告の許へ戻つた。
4 原告は春子のそれまでの不貞行為と背信行為を叱責したが、春子の実母の懇願があり、春子自身も今後被告との関係を断ち切る旨を誓約したので、春子を恕した。そして、同日原告は被告を自宅に呼び寄せて、○○市会議員○○立会のうえで被告に対し春子との情交関係を叱責し、今後は絶対交際しないように要求したところ、被告も原告に対し、春子との従来の関係を詫びて今後一切交際しない旨を誓約し、原告の子供たちに対しても陳謝した。ところが、被告は四日後の同年同月二二日には春子との交際を再開し、原告の家庭に頻繁に電話をかけ、その際、春子以外の者が受話器をとると何も言わずに切り、春子が電話に出るまで掛け直すなどということを繰り返し、その度毎に原告及びその家庭の平穏な家庭生活を乱した。
5 また、被告は昭和六〇年一月から春子との情交を再開し、しかも、同年四月から五月二日の間に少なくとも三回原告の庭まで来て、春子の名を大声で叫ぶなど非常識な行動に出た。そこで、五月二日の際には、堪り兼ねた原告の長男一郎が被告を殴打し、被告は眼部に負傷した。ところが、被告は怪我をさせられたのに原告が誠意を示さないと憤激し、かつ、原告と春子の夫婦関係を一層悪化させれば春子が被告の許へ来るものと考え、同年五月二二日から二九日の各日付で被告と春子との情交関係を記載した葉書合計一〇通を一〇回にわたり原告の前記勤務先を住所として原告宛に投函し、それらはいずれもその頃勤務先へ配達された。そして、原告の妻と被告との醜聞が原告の勤務先の文書受付の女性等の目に触れるところとなつた。しかも、右葉書のうち、二三日ないし二五日付の葉書三通には、いずれも被告と春子とが寄り添つた姿を撮つた写真を貼付し、また、二七日付の葉書二通、二八日付の一通、二九日付の二通には、いずれもカレンダーを貼付し、昭和五八年三月から昭和六〇年四月までの日付欄に肉体関係を持つた日を丸印で囲んで明示した(但し、原告主張の日付と回数で被告と春子との淫らな関係を書いた葉書八通を原告の勤務先に郵便で送付したことは当事者間に争いがない。)。しかも、右の葉書一〇通には、春子との性関係を淫らな言葉で描写した短文を書き添えている。また、その頃被告は春子に対し、右葉書と同趣旨のことを記載したカレンダーを渡して原告所有の自動車内に入れて原告に見せるように言つた。
6 ところで、被告は本件訴が提起された後の昭和六〇年七月一九日から春子と埼玉県志木市○○○のアパートで同棲を始め、今日に至つている。
他方、原告は今では春子との離婚を決意しているが、原告の家庭では、多感な年頃である高校二年生の長男一郎が自棄的となり、勉学意欲を失い、成績も低下し、原告が注意すると母春子の生活態度を楯にとつて反抗し、短大二年生の長女秋子の原告に対する態度までも冷たくなつてしまつた。そのようなことから原告は被告に対し強い憤りを感じている。
以上の事実が認められ<る。>
二前記一2ないし5で認定した被告の一連の非常識極まる不法行為によつて、原告は夫としての権利を著しく侵害されたのみでなく、原告の妻の不倫行為が原告の勤務先関係者にまで知られて、原告の社会的名誉が著しく毀損されたものである。
右被告の不法行為によつて原告は多大な精神上の苦痛を被つたことは多言を要しないところ、前記認定の諸事情に照らすと、慰謝料額は少なくとも金五〇〇万円を下らないと認められる。
三よつて、被告に対し、慰謝料金五〇〇万円及びこれに対する不法行為の後であることが明らかな昭和六〇年六月一五日から支払に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官糟谷忠男 裁判官榎本克巳 裁判官市村 弘)